その様子を見た瓜と桃は心配そうに母を見つめていた。 萌は瓜の目を見て言葉を続けた。 「瓜は強い子だよね? 桃の事あんまり苛めたらダメだよ。 強い子は弱い子を守らないといけないんだから…」 萌はそう言って小指を出した。 「じゃ、指きりだ!」 瓜は震える手で小指をだした。 「ゆびきりげんまん♪ 嘘ついたらハリセンボンのーます♪ 指切った。」 瓜は涙が止まらなくなり指が離れると部屋の隅に行き 座り込み声を出さずに涙を流した。 次に萌は、桃の目を見つめてこう言った。 「桃… 桃には色々苦労をかけてしまうと思う。 もうちょっと大きくなったとき悩みが出来ると思う その時は、銘ちゃんやちぃちゃんに相談してね。 銘ちゃん、ちぃちゃん、その時はよろしくね。」 私と千春はコクリと頷き、千春は「任せてよ!」と 力強く言った。 萌は「お願いします」と言うと言葉を続けた。 「早く、お洗濯や料理を覚えてお父さんの力になってあげてね。」 「うん」 桃は涙を流さずに、じっと萌の話を真剣に聞いていた。 「じゃ、桃も指きり」 萌はそう言うと、小指を出した。 桃は静かに母の元に小指を近づけ、自分から歌を歌った。 「指きりげんまん 嘘ついたらハリセンボンのーます 指切った♪」 桃の指が離れると、萌は太郎の方を見てこう言った。 「萌の結婚式には、私が着たドレスを着せてあげてね。 洋服ダンスの奥に直してあるから…」 太郎は、コクリと頷いた。 「瓜に桃! きちんと、お父さんの言う事聞くのよ!」 瓜と桃は涙声で返事をした。 そして、萌は、この時初めて子供の前で涙を流した。 まだ幼い瓜と桃はどこまで事情を理解できているかはわからない。 だけど、二人とも母親の話を真剣に聞いていた。 よく、子供には人の死の現場を見せるのはよくないという人が居る。 でも、この時だけは、決して悪いものではないのではないかと思った。 確かに、元気だった母親の姿を知る子供に、その母親の死を見せるのは きつく辛いかも知れない。 だけど、この子達がやがて大人になった時、後悔しないと言い切れるだろうか。 血の分けた親子なのだ。 子は親の温もりを… 親はこの温もりを… そして、暖かい肉声を… 最後の最後まで聞く権利位はあるはずなんだ… そして、子は命の大事さを学んでいくのではないだろうか? こう言う経験を得る事により 娘は母親の温もりと強さを… 息子には母親の優しさと厳しさを… こうやって引き継ぐのではないかと… 私は、そう思えて仕方がなかった。 それから、一日が終わった。 その部屋には、彼方と銘、太郎に小太郎がその部屋に居た。 そして、そこに静かに横たわる萌。 その部屋にはその5人だけが居た。