05
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子供達は泣きつかれ別室で眠っていた。
なぜなら萌が暑がり部屋の空調を18度まで下げたからだ。
皆、上着を羽織っていた。

コンコン。
部屋をノックする音が聞こえた。

太郎が「どうぞー」と言うと扉が開いた。

扉の向こうにはカップとホットミルクの容器を持ってきた
千春がそこに居た。

「寒いだろうから、皆さんどうぞ」

千春は、全員の分のカップにホットミルクを入れた。

部屋にはホットミルクの香が充満した。


「あ〜
 言い匂い…」

思わぬ場所から声が聞こえてきたので私は驚いた。

萌がふっと、そう呟いたのだ。
もう二度と目を覚まさないと思っていたため私達は皆驚いた。

「私は、冷たーいイチゴミルクがいいなぁ〜」

「じゃ、俺が買ってくるよ。」

彼方はそう言うと、上着を椅子に置き、自販機に走った。

話しやすいように萌のベットを90度に傾け…
そして、小さな小さなティーパーティを開いた。

そこに居る皆、小学生の頃からの親友だった。
だから、話のタネなど幾らでもあった。

一時間ほど話したとき、萌は眠そうな声でこう言った。

「なんだか、眠くなってきた…」

萌はそう言うと、すぐに眠りに着いた。
最高血圧は50を切り、脈拍も少しずつ減ってきた。

午前10時48分

彼女はゆっくりと寝息を立てた後
この世で最後の空気を吸い込み、こくりと頭を下げて息を引き取った。

享年26歳
私達と同じ歳だった。

彼方は、目で「臨終だよ。」と私に知らせた。
でも、私にはそれが出来なかった。
今だけは、今日だけは萌の医者ではなく。
萌の親友としてその場に居たかったから…

彼方は黙って、萌の脈をはかり皆に臨終を伝えた。

皆、無言の中
セミだけが鳴き続けていた。
ただ…
ただ…
ひたすらに…




イチゴミルク

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