02
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「ベットがふわふわ〜」

萌は今年で26歳になるにも関わらず、まるで子供のように
ベットの上で「きゃっきゃ」とはしゃいでいた。

「銘ちゃん!」

「何?どうしたの?胸痛む?」

突然、萌は私の名前を呼んだあと、口の端をだらしなく吊り上げ
「にゃー」と鳴いた後こういった。

「私、病院のベットって昔から憧れていたんだー
 思ったよりもふわふわしてるよー
 きもちぃ…」

萌がそんな事を言っていると、私の双子の妹の千春が掛け布団を持ってきた。

私達が部屋から出た後、萌が居る病室からすすり泣く声が聞こえた。
できるのなら、傍に行って抱きしめてあげたかった。

この後、萌は手術が待っている。
抱きしめて欲しいのは私じゃないはずだ。
病室の前で、待機していた太郎に私は言った。

「行ってあげて…
 もうすぐ麻酔医が来て注射をすると思うんだ。
 だから、せめて萌が眠りにつくまで…
 傍に居てあげて。」

太郎は、コクリと頷き病室の中に入っていった。

「怖いよ…
 ヤダよ…」

そんな声が聞こえてきた。
それはきっと、心の置くまで見せる事が出来る夫だけへの弱音だろう。

「絶対、成功させてね」

千春は、珍しく真剣な目で私を見つめた。

「うん。全力を尽くす。」

私がそう言うと、スカートを弱弱しく引っ張る力を感じた。
目を下にやると、萌の子である双子の兄妹の瓜(男)と桃(女)
がそこに居た。

いつも元気な二人は、泣きべそを描きながら私にこういった。

「絶対に治してね。」

私は、「お姉ちゃん全力を尽くすね…」

二人は、コクリと頷いた。

手術の時間は約8時間。
手術は無事成功した…

と言いたかった。
組織検査の結果、ガンの段階評価が5に達成していた。
手術は成功した。
だが、想像以上にガンは転移していて、肺にまで達していたのだ。
暫く彼女は入院した後、彼女は退院した。

それが、最後の帰宅になる事なんて彼女は知るよしも無かった。

萌が退院して、家に戻り。
そろそろ子供たちも不安から解放されようとした頃…
萌は、自宅で意識を失い倒れた。

萌が退院して一週間後の夜の事だった。

虫たちの合唱の中
救急車のサイレンだけが虚しく響いた。

私はその時、夜勤で仮眠を取っていた時だった。
私の携帯に一本の電話が入る。

太郎からだった。

「萌が倒れて、救急車で運ばれた。」

太郎のその声は、消え入りそうな声だった。

イチゴミルク

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