深雪は、今も泣いている。 だけど、なんて言ったらいいのか解らない。 「おめでとう?」 「ありがとう?」 「今すぐ結婚しよう?」 おめでとうは、他人行儀だよな… ありがとうも何か変だ… 婚約したばかりなのに、結婚しようもおかしい… 「どうして、黙るの…?」 深雪が、不安げに俺の顔を見ている。 だけど、俺は雲の無い空を見つめるしかできなかった… 深雪が、俺の腕を掴んだ。 その手は、プルプルと震えている。 俺は、その手を振りほどき、ベットから降りた。 深雪は、目を下ろし歯を噛締めた。 「トイレに行って来る…」 俺は、そう言い残しその場をさった。 背後から深雪の啜り泣く声が聞えた。 何をやってるんだろう… 俺は、こんな事をする為に戻って来たのか? 深雪を救う為に、過去に戻って来たはずなのに… 今、アイツは、泣いて居るじゃないか… 俺は… 「深雪。 俺、子供を愛する事できるかな?」 俺は、足を止め深雪に尋ねた。 深雪は、立ち上がると俺の体を抱き締めた。 「大丈夫だよ。」 違うんだ… 深雪… 君は、本当はあの時、死んでいたんだ… そして、助かるはずだった銘が死んだ… 俺は、心の中で銘への謝罪と、生まれて来るはずだった悠多への謝罪… そして、深雪のお腹の中の子への不安でいっぱいになっていた。 だけど… だけど… 前に進まなければいけない。 きっと、こんな俺を銘が見たら説教するんだろうな… 俺は、涙を止め深雪に言った。 「三人で、幸せになろうな…」 「うん。絶対だよ… 絶対だからね…」 「ああ、ありがとう」 「うん… ありがとう…」 俺が背負わなければイケナイモノは想像より遥かに大きい… だけど、それを深雪にまで、背負わせる事は出来ない。 俺は、幸せになる事で、きっとそれが軽くなるのだろう… 頭の良い銘の事だ… こうなる事は、想像できていたのだろう… 俺たちの物語は、これからであり… これで、終わるのだ… 俺たちは、次の日。 会社に休暇届をだし。 深雪の父親に合いに行く事になった。