俺達が、奥に入って行くと、じっと座り込んで居る男の子が居た。 俺は、しゃがみ視線をなるべく合わせながら、その子に話しかけた。 「こんにちは」 男の子は、口の先を少しだけ上に上げると、コクリと頷いた。 深雪も同じく視線を合わせながら、その男の子に話しかけた。 「坊やのお名前は、なんと言うのかな? あ、私は深雪お姉さんで、このお兄さんは、伸二お兄さんだよ〜」 男の子は困った顔をして俺の方を見た。 確かにどこの体操のお兄さんなんだよ… って、感じだよな… 俺は、男の子の顔をじっと見つめてからこう言った。 「伸二だ。よろしくな」 そして、手を出すとその子は、高い可愛らしい声でこう言った。 「美穂です。」 美穂… 恐らく出なくても女の子の名前だよな… 俺が、そう思って居ると、深雪が横から話しに入って来た。 「君、もしかして女の子?」 すると、美穂は苦笑いを浮かべながら笑った。 帽子を被り、ズボンを履き髪も短いためずっと男の子かと思っていた… だけど、どうやら女の子らしい… すると深雪は、美穂の帽子を俺に渡すと、カバンから取り出した出したリボンで 美穂の髪を結い始めた。 美穂は、頬を赤くしながら、しきりに近くにある鏡の方を気にしていた。 「はい♪完成 これで、誰にも男の子とは言わせないぞ〜」 と、ご機嫌な声で言った。 「お前も間違っただろ?」と思ったが、口には出さないで置く事にした。 鏡の前で笑う、美穂ちゃんの笑顔を見ていたらどうでもよくなった。 美穂ちゃんは、おもちゃ箱から、おままごとセットを取り出した。 すると、深雪の方を指でさして「ママ」と言い、俺を指差して「パパ」と言った。 するとよせば良いのに… 深雪は、また余計な事を尋ねた。 「美穂ちゃんの、パパとママはどんな人なの?」 すると美穂ちゃんは、悲しそうな声で言った。 「パパとママは、お仕事ばっかで、遊んでくれた事ないの…」 「でも、今日は一緒に来たんだよね?」 と、深雪が尋ねると美穂は、首を横に振った。 迷子センターのスタッフの人も話を聞いて居たのか、俺の耳元で、そっと呟くと、 小走りで出入り口の方へ向かった。 「スタッフの方は、何て言ったの?」 深雪は、美穂ちゃんを膝の上で抱きながら心配そうに俺の顔を見つめた。 俺は、一呼吸を入れて深雪に伝えた。 「センター長を呼んで来るってさ…」 何故だか解らない… だけど、俺の小さい頃と今の美穂ちゃんは、少し似て居る気がする… そんな気がした。