俺が、その喫茶店に入ると、ケーキを食べている深雪の姿があった。 喫茶店に入ると、マスターが声を掛けて来た。 「深雪ちゃん、来ているよ…」 「あ、はい、じゃ、ホット一つおねがいします。」 「はいよ…」 この会話のやり取りも懐かしく感じた。 そう言えば、過去に来てから、このやり取りをしていないや… 俺は、そんな事を考えながら、深雪が待つテーブルに向かった。 「おはよう」 「あ、おはよう。 早かったね」 深雪は、寝起きなのか寝癖が立っていた。 「で、打ち合わせって?」 と、俺が言うと深雪は頬を膨らませながら 「も〜 傷ついた心を癒したくて、恋人を呼んだのに、わかってくれないか… 目の前の恋人は…」 と、『また無茶を…』と心の中で思いつつ尋ねて見た。 「何かあったの?」 「これから仕事なの〜」 と、泣きそうな声で言った。 「ん?手伝おうか?」 「うんん… なんか、学会の発表があるらしくて、教授達とこれから、 ミーティングなの〜」 「そっか〜」 「だからさ〜 明日の水族館の事なんだけど…」 「うん」 「十時に現地集合でもいい?」 「え?」 「何?私、変な事言った?」 「いや… いつも見たいに迎えに行かなくてもいいの?」 「いいの! だって、待合わせをした方が、なんかデートっぽいじゃん!」 「そっか、了解♪」 「朝這い、しようたってそうはいかないんだから!」 朝這いとは、夜這いの逆で、朝にする事である… と、誰に説明しているのかは、謎だが… そろそろ行かないと間に合わないとの事なので、深雪は仕事に向かった。 俺は、その夜… 自宅で、昔のアルバムを眺めていた… 「もうすぐ…もうすぐで、あの日が来てしまう…」 そう呟きながら、アルバムを反対から眺めていた。 アルバムを反対から、眺めると少しづつ過去に向かって行く感覚が・・・ そしてそれが、また新鮮でより深く思い出す事が出来た。 入社式の写真… 大学の卒業式の写真。 この二人だけのアルバムを深雪が勝手に作った時の写真… 確か、あの時は、ちょっと喧嘩したんだよな… 「アルバムの位置をバラバラにしたら、ややこしくなる」 俺は、そう言ったのにアイツは聞かなくて… 懐かしい思い出は、走馬燈のように蘇った。 思い出も、もっとも古い… まだ、深雪の母親がいた頃… 幼稚園のオリエンテーションの時の写真。 日にちは、明日… そして、場所は明日行く場所… 水族館だった…。 そう、それは… 二人が初めて出会った場所でもあったのだ…。