手術中のランプが消える。 父親が、担当医に話を聞いている。 声は、こちらまで… 聞こえて来る。 「出血の量が酷い上に… 刺した包丁の部分に毒が塗られていたみたいで… 大変、残念な結果になってしまいました」 「残念な結果と申しますと…」 「深雪さんは、お亡くなりになりました…」 深雪が死んだ…? 俺のせいだ… 「こちらとしても、全力を尽くしたのですが…」 俺が、場所さえ、間違っていなければ… 俺が、もっとしっかりしていれば… 「毒の回りが早く…脊椎まで達してまして…」 医者が何かを言っているようだが… 俺には、何も聞こえなかった… ふと、気が付いた時、俺が座る、イスの隣りに、深雪の父親が座っていた… 「あいつは、笑っていたか?」 「え?」 俺は、父親の顔を見ると、疲れた顔で俺の顔をじっと見ていた… 「君が、南伸二君だろ? 娘の…深雪の婚約者の…」 「はい…」 俺は、歯を食いしばった… 殴られると思ったからだ… この人になら、例え殴り殺されても文句は言えない… 俺は、本気で、そう感じていた… しかし、帰って来た言葉は… 「あれは、最後まで笑っていたそうじゃないか… 幸せな顔をして… 『私、あの人と結婚するんです』って、救急隊員の人に言ってたそうなんだよ…」 親父さんは、涙を堪えながら言葉を続けた… 「妻が亡くなってから… あの子は、笑わなくなったんだ… なのに、君と付き合いだした途端… 急にあの子の中で、笑顔が戻ったんだ… あの子は、笑ってたかい?」 俺は、涙を押さえながら… 「はい…」 申し訳ありませんでした。 娘さんを守れなくて… そう、俺は言うつもりだった… だけど、それ以上の言葉は、涙が溢れそうで言えなかった… 親父さんは、俺に一言こう言った。 「君は、幸せになれ… 娘の分も… 幸せになれ…」 「でも…俺は…」 「伸二君… ありがとう…」 どうして、責めない… 『ありがとう』 そんなセリフもらえる立場じゃない… 俺は、震える手を、イスにたたき付けながら… 声が出ない涙を流した…