あれからどれ位の時間が過ぎたのだろう… 俺達の子供が生まれ、一年が過ぎようとした頃… 薬が完成した。 深雪は、子供を抱き締め、俺の顔を見つめた。 「プスリと刺してね… 痛くないように、プスリと…」 苦笑いを浮かべながら深雪は、俺にナイフを渡した。 「どう言う事だ?」 「確かに、過去は変えれるようになったけど… それって、やっぱいけない事だと思うの…」 「いや、でも…」 深雪は、悲しそうな笑顔で、口をつむった。 その時、あの時の銘の姿が脳裏を過ぎった… 「…わかった」 「約束だよ…」 深雪の痛みが痛い程感じた。 そして、その優しさが… 俺の心を刺激し… そして、涙がこぼれそうになった…。 俺は、それを誤魔化す為… 深雪と唇を重ねた… 永い永い時の流れの時間が、走馬燈の様に蘇る… 涙が止まるその時まで… 唇を重ねた。 ・・・・・ ・・・・ ・・ ・ 俺は、深雪から薬とナイフを渡される。 「いってらっしゃい」 妻が夫の仕事に見送るかの様に、暖かい笑顔で深雪が俺を送り出す。 「いってきます」 俺は、夫が仕事を見送る妻にするように手をあげた。 そして、一気に薬を飲干した。 夢を見る時の感覚… 目の尻尾をひっぱられ、脳が後退して行くのが解る。 目を閉じて、再び目を開けた時。 二度寝から覚めたような感覚のまま… 誰も居ない、研究室の中に居た… そこにあった、コートを羽織り、内ポケットにナイフをしまった。 かなりの急ぎ足で俺は、あの時の公園に向かった。 若い俺と若い深雪… ふたりは、目を向き合い何かを話して居た。 刺さなきゃ… 深雪を刺さなきゃ… そう思っているのに体が動かない… 幸せそうに笑う深雪を見た時… 手が震えた… 俺が躊躇していると、懐かしい香りと共に、俺の横を誰かが横切り… そして、深雪の背後に向かうと、光る何かが見えた後… 深雪はガクリと倒れた。 そして、刺した本人は後ろずさり… 走って逃げて行った… 俺は、追いかけた。 その匂いに心覚えがあるから… 走って追いかけ、押し倒し、掴まえた。 そして、俺はその人の名前を呼んだ… 「深雪?どうして…」 深雪は涙を浮かべながら震える声で言った。 「やっぱ、伸二には、私を刺す事できないよね?」 深雪は、小さく震えながら、涙を流した。 「でも… 刺さないでくれてありがとう… 私、そう言う所を含めて…」 深雪は、息を止め流れる涙を止めようと鼻の穴が小さく動いた。 「好きだったよ…」 そして、無理に作った笑顔ではなく… 本当に幸せな顔で笑顔を作った後… 深雪の姿が消えていった… そして、俺もまた… 意識を失うような感覚に覆われ… そして、目を閉じた… 次に目を覚ました時… 俺は、研究室の中に居た… 懐かしい匂いがした… 懐かしい感覚がした… 生きている銘が、そこに居た… 一点の場所を見つめ、放心状態で立っていた… そんな銘に俺は、こう言った… 「ただいま…」 銘は、俺の姿を確認すると、小さな子供が泣くように、「わーん」と泣いた。 いつも大人ぶって、俺よりも年下なのに、精一杯背伸びして居た銘… そんな銘は、涙をぼろぼろ流し、一生懸命涙を手で拭って居た… この時、初めて自分がどんだけ残酷な事をしたのか… それが初めてわかった気がする… 俺は、銘を抱き締めると、銘はそれに応じるかのように俺の胸の中で 涙を流して居た。 「ただいま…」 涙が止まらないまま、声を出さず、コクリと頷いた… 「もう、どこにも行かない… だから、これからも、ずっと一緒に居てもいいか?」 「もう、どこにもいかないで…」 俺の胸で涙を流し… 残酷な事をした俺を、受け入れてくれる銘を見ると… 絶対に幸せにしてやろうと思った… だから、銘の手が血まみれになっている… その事には、一生触れないでいこう… そう心に誓った… 答えは、心の中に… おわり